【息子さんに「建築学科に行きたい」と言われたお母さんへ①】

建築を学んでいる学生や一級建築士を目指している方を対象に書いてきましたが、「建築」を学んでいない方に対して少しでも何か伝えられたらと思い、新たな挑戦として、「建築」とは何か、「建築学科」では何を学ぶのか、「一級建築士」ってどうやったらなれるのか等を書いてみようと思います。

オープンキャンパスの経験

私は学生時代にオープンキャンパスのアルバイトをしたことが数回あります。

意匠系の研究室に所属していたので、オープンキャンパスに展示してある学生たちの優秀作品を来てくれた高校生に説明するというのが主な仕事内容でした。

オープンキャンパスに来られている高校生は興味深く模型や作品シートを見て、

「これはどういう授業なんですか」
「これはどういう模型なんですか」

という質問が多いので、こちらとしても回答がしやすく、授業の説明をしたり、経験談をお話ししたりするのが役割でした。

しかし、「建築学科」に興味を持った高校生の引率として来ているお母さんは、建築学科に対する疑問が多く、建築学科の学生では回答しにくい質問が多かったです。

建築学科って何なの?」

下記には、当時受けた質問を箇条書きにしております。今回のコラムではそのような質問に答えて行ければと思っています。

建築学科って何するところなんですか?」
建築学科を卒業すると一級建築士になれるんですか?」
建築学科を卒業するとどういうところに就職できるんですか?」
建築学科を卒業すると建築家になるんですか?」

「建築」を学んでいない方にとってすれば、「建築学科」ってどういうことをするところなのか、ましてや自分の息子や娘が訳の分からない分野に進むことに対して不安が多いと思います。

建築を知らない方へ、少しでもその疑問が解決出来れば嬉しいです。

建築学科って何するところなんですか?」

この質問については簡単に答えるのは難しく、一言で言うのであれば、「建築」に関連する多様な知識を学ぶ場だとしか言えません。

40歳で若手と言われる建築業界では、社会に出なければ具体的な内容は習得できないのが現実です。

建築学科では、建築に関する膨大ですが、基本的な内容を学習します。

お医者さんや弁護士と同様に、卒業すれば直ぐに建築設計が出来るようになるということはありません。

だからこそ、お父さんは「多額な学費を払って建築学科を出たのに、そんなこともわからんのか?」とは決して言わないようにお願いします。笑

建築学科で学べること

建築学科で学べることについては、多様な内容があります。

建築製図:図面の書き方。表現の仕方を学びます。
例をあげるのであれば、平面図(上から見た図面)の扉の表現の仕方や天井下がり端点線で表記するといった、基本的だが建築図面特有の表現の仕方を学びます。
建築設計:様々な用途(住宅、集合住宅、小学校、図書館、美術館)などの設計課題を通じて、計画の仕方を学びます。
建築計画:建築を設計する上で法規以外で当たり前に守らなければならない基本的な内容を学習します。
都市計画:建築単体ではなく、都市的な視点から見た時にまちづくりの方法について学習します。主に、様々な都市の歴史を学び、特徴的な都市等でリサーチを行い、計画提案をする授業です。
建築法規:建築基準法等、建築に関する法律について学習します。
建築構造:建築における構造計算の基本的な内容を学習します。柱や梁にどれくらいの荷重がかかるのか。地震力等の外部影響をどう反映させて計算するのか。
高校生の時に学ぶ物理の応用になります。
建築施工:建築を工事する際にどのように工事が進んでいくのかやコンクリートの打設の仕方等を学習します。
建築環境:建築に取込んだり、遮断したりする日照や風、温熱などの外部環境との関係を」学習します。また建築内に計画される、空調設備や照明設備等、音環境などの学習を行います。実験を通じて具体的な数値等も習得します。

建築史(西洋建築史・日本建築史)
建築に関する歴史を学びます。

次の質問です。

建築学科を卒業すると一級建築士になれるんですか?」

建築学科を卒業しただけでは、一級建築士にはなれません。ましてや二級建築士の資格もありません。

建築学科を卒業して、得られるものは、受験資格だけです。

ただ二級建築士は4年制の大学を卒業し、規定の単位が取得(単位取得証明書)出来ていれば、卒業したと同時に受験資格を得ます。

しかし、一級建築士では卒業し、規定の単位を取ったかどうかの証明書である単位取得証明書の他に、一級建築士事務所で2年間の実務経験を積む必要があります。

2008年までは卒業すれば良かったものが、2009年の大学入学者からは、単位取得証明書が必要になり、取得した単位によって実務経験が2年で良いのか、3年になるのか、大学院に行ってインターンや留学を経験して、1年に免除されるのかが決められています。

※単位によって実務経験の期間については、大学によって異なるので、注意が必要です。

昨今の建築業界の様々問題から、一級建築士になるためには、更に厳しくなるとも言われています。

一方で昨年末に「一級建築士試験の受験は大学卒業と同時に可能になる」ということが発表されました。

一級建築士の方が多く引退されている現代において、一級建築士の資格者は年々減少しているためです。

ただ、合格しても一級建築士の免許は取得できず、2年の実務経験を得てから免許交付となるそうです。

一見意味がなさそうですが、一級建築士の出題範囲は膨大で、残業が多いと言われている建築業界では仕事をしながらの勉強はとても大変です。

私自身も毎日0時から3時まで勉強し、7時に起きて会社にいくという生活をしていました。

むしろそれくらいしないと受からないほど難しい試験なのです。

毎年の合格率は10〜12%であり、以前は理系の司法試験とまで言われていました。

偏差値を調べて見ると、パイロットになるより高いそうです。

建築とは生涯学習と言われているように、建築学科を卒業してからも勉強をし、実務経験を積まなければ、一級建築士にはなれないのです。

だからこそ、目指すべき資格なのだと思います。

予想より長くなってしまったので、今回はここまでにします。上記に書いた残りの質問については次回のコラムでお答えします。

次回

建築学科を卒業するとどういうところに就職できるの?」
建築学科を卒業した方は建築家になるんですか?」