【異質な建築としゃぶしゃぶ戦争】

あるしゃぶしゃぶ店同士で抗争が起きている。

発端は昨年の今頃だろうか、中目黒駅から徒歩3分程度の中目黒銀座付近にとても不思議な建築が建設された。工事中では確認できなかったが、足場が外れるとすぐにその異質さは際立ち始めた。

建築の自体は鉄骨造である。立面的に斜めに切り取られた打ちっ放しサインウォールは、デザイン的にも効いており、デザイナーが入ったのかな?と感じさせる。正面の躯体にはLアングルが取り付けられており、近日中に外装がつけられるだろうと予想した。

次の週。

その建築物の前を通りかかると、その異質な建築の正体が垣間見えた。

躯体のLアングルに取り付けられたのは、緑色の有孔折板だ。しかもサインウォールと合わせるように、斜めに切り取られている。

今は少し変わっているのかもしれないが、紫色の階段。

その緑と紫の組み合わせに建築設計の仕事をしている人なら誰しもが思っただろう。

「えっ。ダ○くない?」と。

有孔折板とは、文字どおり孔の空いた折板である。軽量ながら強度に優れており、主に目隠しとして設備機器の前に設置されることが多いのだが、デザインとして外観に取り付ける例も少なくない。

私自身もある設計で外装デザインとして、有孔折板を取り付けたこともある。それに注意してみると、有孔折板は至る所で使われているのに気づく。

中目黒駅でも使用されているし、有名なもので言えば、群馬県前橋市にある青木淳氏設計の某眼鏡店のオフィスが挙げられる。有孔折板を前面に巡らせ、白いカーテンを表現しているそうだ。とても綺麗な建築である。

ただ中目黒にあるこの建築の有孔折板は緑色だ。きっと白い有孔折板をわざわざ緑色に塗装しているのだろう。かっこ良いと思ってやったのか、単純に異質な建築を作りたくてやったのか。理由は不明である。

まぁ、その建築の外観デザインがしゃぶしゃぶ抗争の問題ではない。

緑色の有孔折板が取り付けられている建築にテナントとしてあるしゃぶしゃぶ屋さんがはいった。「しゃぶしゃぶ れたす」というお店だ。「新しいしゃぶしゃぶのかたち」をコンセプトに一人一つの鍋でたくさんの野菜が楽しめるランチからもやっているお店だ。

そして抗争はその異質な建築が出来てから、1年後の出来事である。

最近になって、その「しゃぶしゃぶ れたす」の4軒ほど隣に、そのお店そっくりのしゃぶしゃぶ専門店がオープンした。誰もが姉妹店だと思っただろう。

私も実際に訪れてみたが、お店の雰囲気が少し違うだけで、選べる鍋の種類や出てくる野菜の種類まで類似している。実際に何が違うかは、両店舗で出している品物を同時に頼んで比べてみないとわからないくらいだ。

始め「しゃぶしゃぶ れたす」は、ランチでも待つ人が出るくらいの人気店であったから、収益が見込めると判断して、同じ店舗をオープンしたのだとばかり思っていた。

しかし、しばらくして元祖である緑色の有孔折板のお店である「しゃぶしゃぶレタス」に行って見ると、入り口前の目立つところにある張紙があった。

      類似店にご注意を!

当社が運営するしゃぶしゃぶレタスと類似した店舗が近隣で確認されております。弊社とは一切関係ありませんので、店舗をご利用の際は十分にご注意いただきますようお願い申し上げます。

どういうことだ。こんなに酷似しているのに、違う店舗だというのか。にわかには信じられなかった。

どうやら、牛角や温野菜を運営しているレインズインターナショナルの創業者である西山氏は、コロワイドにレインズを売却し、レインズは連結子会社となった。その後、西山氏は株式会社ダイニングイノベーションを創業し、「しゃぶしゃぶ れたす」をスタートさせた。

そして出来たのが、緑色の有孔折板を持つ中目黒本店である。

そして、最近になりコロワイド側が、傘下企業経由で「しゃぶしゃぶ れたす」とは無関係の類似店舗を中目黒で、しかも驚くほどの近さにオープンさせたのだった。

「しゃぶしゃぶ れたす」は、上記のような張紙を貼り、公式サイトでも同じようなことを言っているので、面白く思っていないことは間違いないだろう。

何か因縁でもあるのだろうか?

このしゃぶしゃぶ抗争がどのように集結するのかは未だ不明であるが、一つ言っておきたいことがある。

本家「しゃぶしゃぶ れたす」の類似店である店舗の名称は「SHABU SHABU れたすれたす&れたす」である。

しゃぶしゃぶのレタスは確かに美味いが、そんなにレタスは食べられない。