卒業旅行記_04【バルセロナ-日本の女性は世界一-】
朝7時に目が覚めた。
ソファのベッドは、間が2つに分かれるタイプだったので、意外と寝にくかった。バルコニーに出て、煙草に火をつける。1本吸い終わったところでみんなも起きてきた。
今日は念願のサグラダ・ファミリアに行く予定だ。
ホテル内で簡単な朝ご飯を食べ、9時前には歩いて5分程度のサグラダファミリアに向かう。チケット購入場所は長蛇の列だった。今日は日曜日だ。
サグラダ・ファミリアとは、スペインの建築家であるアントニオ・ガウディの未だに完成していない教会建築である。
バルセロナ市のシンボルであるこの建築は、綿密に構成された象徴的で類を見ない形状を持つ。放物線状の構造アーチや、鐘楼に据えられた自然主義と抽象主義の混在する彫刻等で構成されており、他にはない建築様式でもある。
今や、サグラダ・ファミリアはアルハンブラ宮殿やマドリッドのプラド美術館を抜いてスペインで最も観光客を集めた建物となっており、言わずもがなスペイン1のモニュメントとして存在している。更には2005年には、設計者であるガウディが生前携わったグエル公園やグエル邸、カサ・ミラなどと合わせて、「アントニオ・ガウディの作品群」として、ユネスコの世界遺産に登録されているから尚更だ。
誰もが一度は行って見たいと思うのでないだろうか。もちろん私たちもそう思っていた。
しかし最近までは完成に150年以上かかるとも噂されていた。しかし、ここに来て、完成予想が2026年と発表されたのだ。
こんなに早く完成することになったのには2つの理由がある。
1つ目は、資金問題の解決であると言われている。1990年代以降に拝観料収入が増えたことにより、資金状況が好転したことで完成への道しるべが見つかったのだ。
2つ目は、近年のIT技術を駆使することで、建設期間が大幅に縮まったと言われている。コンピュータのない時代には、手作業である模型による模造実験を経て形状を再現しつつ建設に取り掛かっていたが。今では3Dプリンターやコンピュータによる設計技術が進んだことで、進捗はかなりスムーズになったと言われているのだ。
これは未完成前に行かなければと思い、卒業旅行を王道のスペインにしたといっても過言ではない。
1時間ほど並んでチケットを買うと、「受難の門」から中へと入った。
サグラダ・ファミリアには、2つの門がある。
一つは日本人彫刻家である外尾悦郎が一部を手掛けた「生誕の門」である。緻密な彫刻の中には、海と山に囲まれているバルセロナを象徴するようにウミガメとリクガメのデザインが柱に施されている。
もう一つは、当日券を購入した者が出入りする「受難の門」である。こちらはキリストの死から復活までのストーリーが施されているそうだ。
サグラダファミリアで午前中いっぱいを使ったあとは、近辺のレストランでパエリアを食べた。本場のパエリアは少し不思議な味がした。
その後グエル公園へと向かうためにタクシーを探した。
5人乗りのタクシーはなかなか見つからない。
10分程待つと、50m先で停車中のワゴンタクシーを見つけた。
近寄ると運転手に目が行く。
少し強面。ドレッドヘアーの黒人だった。こういうのはあまり言いたくないのだが、少し怖い。
折角見つけたタクシーだったが、ビビリの俺らは、「あのタクシーはやめよう」と話した。
しかし、気付いた時には、気にも留めない海くんが運転手に話しかけていた。すんなりと乗車することを決めてきた。
そうであれば仕方がない。
覚悟を決めて、グエル公園までとお願いする。バルセロナは英語が通じるのでありがたい。
乗車して見てわかったが、とても気さくな運転手だった。先ほどまでの感情など忘れていた。
「どこから来たの?」もちろん英語で訪ねてきた。
「日本だよ」と答える。
すると、笑顔でその運転手は言った。
「Japanese girls are very cute.」
突然のカミングアウトに驚いたが、機転を利かせた友弘が答える。
「of course. Top of the world.」
予想外だったのだろうか。ケラケラと笑いだして止まらない。
英語は合っているのか当時はわからない。ただ確かに伝わったのだ。
「日本の女性が世界一可愛い」というのは、どうやら万国共通らしい。
グエル公園を一通り見学した後は、カンプノウに向かい、カサミラまで行く予定だった。
グエル公園前のお土産屋さんの前で、再びタクシーを探す。
今度はすぐに見つかった。ちょうど目の前で5人乗りのタクシーが止まったのだ。
皆で揃ってタクシーを引き止め、乗車する。「ラッキー」と言って運転席を見た。
すると、、、さっきの運転手だった。
笑いながらこう言ってきた。
「 Top of the world‼︎」
俺らのグループ名が「世界一」になった。