卒業旅行記03_【バルセロナ-ベッド争奪戦-】
バルセロナにあるエル・プラット空港に着いたのは、旅行2日目の夜18時頃だった。
バルセロナでは4日間の滞在を予定していたから、ホテルから各観光地に行けるように拠点となる1つのホテルを4泊分を予約していた。
ホテルは、空港からタクシーで20分程のサグラダ・ファミリア近くに取っていた。
5人乗りのタクシーはなかなかない。エル・プラット空港で20分程待ち、少し大きめなワゴン車のタクシーに乗りホテルへと向う。パンパンのリュックとキャリーケースにたくさんのパリ土産が加わっていたので、タクシーの荷台を開けてもらい荷物を詰めた。
タクシーでは、敢えて遠回りをして金額を余分に請求されることを恐れたビビリの俺らは、GoogleMapを開きながらホテルまでの道中を過ごした。
余分に請求されることはなくホテルの目の前でタクシーを下車し、客室へと入った。
ホテルは5人部屋を予約していた。
4日間滞在することもあって、広めの客室だ。客室にはダイニング、リビング、キッチン、洗濯機、シャワー室、バルコニー、更にはwifiまで完備していた。
思ってたよりも広く綺麗な部屋にテンションが上がった。リビングに荷物を降ろしてから部屋の中を探ぐると、3つの寝室があることに気がついた。
3つ?俺らは5人だ。
どうやらその部屋はファミリー用で、シングルベッドの寝室が1つとセミダブルベッドの寝室が2つあった。
5人で1つの部屋であれば、さほど問題にはならなかっただろうが、4畳程の部屋にある1つのセミダブルベッドで男同士2人が寝ることは、いくら仲が良くても嫌だ。
もちろん贅沢は言ってられないので、我慢するのが濃厚であったが、友弘がそこである提案をした。
「俺らは建築学科だ。床に寝るのも、椅子の上に寝るのも慣れっこだろ?今からババ抜きして、買った人から部屋を決めていこう」と。
「男子は馬鹿な戦いが好き」というのは、いくつになっても変わらない。全員が了承して、ベッド争奪戦のババ抜きが始まった。もちろんトランプは持参している。
1位は少し広めの部屋にあるセミダブルのベッド。
2位はシングルベッド。
3位は4畳程のダブルベッドだが、マットレスが分割出来る仕様だったので、片方のマットレスを5位に貸す。
4位はリビングにあるそれ程大きくはないソファ。
そして、5位はダイニングにある5つの椅子を並べて、3位から借りたマットレスを引く。
結果から言うと、俺は4位。1位は海くん。2位は友弘。3位は田畑。そして5位は辻谷となった。
こういうのは言い出しっぺが最下位になるはずだが、北里研の大敗だった。
辻谷はどんなに眠くても、みんなが順番で風呂に入りダイニングでの談笑を終えて、各部屋に行って始めて、寝床を作らなければならない。俺はソファに腰掛けるだけなので楽だったが、椅子と言うベッドで4日間過ごすことになった辻谷を東研究室のみんなは不憫だと思ったのか、必要のない枕や掛け布団を貸していた。
気付いた時には、どっちが最下位かわからなくなるほど辻谷のベッドはふかふかになった。
俺と辻谷の寝床はリビング・ダイニングにあるため、みんなが各部屋に入り静かになった後でも、しばらく話していた。バルセロナ担当である俺は明日の予定を相談していたのだ。
明日は「ガウディ巡り」の初日。この旅行のメイン計画の1つだった。
アントニオ・ガウディは知らないものはいないと思うが、明日はまず念願の完成間近と言われていたサグラダ・ファミリアに行き、お昼を食べてからタクシーでグエル公園に行く。そしてカサミラの集合住宅を見学をして終了だ。無理して廻るよりかは、「意見を出し合いながらじっくりと見学する日」と考えていた。
建築旅行では感想や議論こそが大切だ。だから一人旅よりは、人数を確保して行った方が、自分が気づけなかったことも知ることができる。俺はその方が良いと思っているし、国内旅行でもそうしてきた。
まぁ、国内の建築ならまだしも、ガウディの建築を見て、何かを発見して意見を言えるほど、博識ではないわけだが。
そんな話を辻谷としていざ寝ようとした時、シングルベッドの部屋から友弘がリビングにやって来た。
「どうしたの?」電気を消すために立ち上がった辻谷は友弘に聞く。
「お土産。タクシーの中に忘れた。手提げバッグごと置いて来たわ」
友弘はタクシーの荷台に荷物を詰めた際、手提げバックをキャリーケースと側面に挟むように立て掛けたのだと言う。ホテルに着き荷物を降ろす際、タクシーの荷台には電気がつかなかったので、そのまま置き忘れたそうだ。
「まじ?イタリアでのチケットは?そこに入れてなかった?」
お土産なんかどうでも良い。それよりスペインの次の1週間で使うチケット類が、俺は2人は心配だった。
「それは大丈夫!空港で忘れそうだなって思って、チケットとかは全部リュックに入れたから」と友弘は答えた。
「そうなんだ」
「まぁお土産なら、また買えるし、明日タクシー会社に電話してみたら?」
「うん。そうするわ。せっかく買った絵が見つからなかったら辛いわ。」
と友弘は悔しそうに言う。
言い出しっぺが負けるジンクスは、ベッドよりも重くなって返ってきた。